エレベータについて、その1

今所属している会社のオフィスのビルは、大変にボロい。近いうちに取り壊されると聞いている。家賃が安いらしい。

 

ボロいことに、取り立てて不満はないのだが、ひとつだけ、いただけないことがある。エレベータがアホなのだ。


まず、急に閉まる。普通は、なんか知らんが、人感センサみたいなものを搭載して、人が通っていると判断できる時は、エレベータは閉まらないものだと思っていた。

 

しかし、このエレベータは閉まる。急に閉まる。しかも、開いている時間が極めて短い。体感で、一般的なエレベータの半分くらいだ。おれは、数えたことがあるけど、大体3秒で閉まる。1,2,3 でズドンだ。

 

ついでに、すごく速く閉まる。閉じるスピードがえぐい。開くスピードより、圧倒的に速いように感じる。モーゼも、こんな気持ちだったのだろうか。

 

想像するに、モーゼはすごく頑張って海原を開いたのだろう。しかし、きっと海を開き続けるのは大変だから、行け、おれは後から行くから、先に行ってくれ、と、皆に言ったのだと思う。ああ、急かすのは悪いけど、悪いんだけど、もうちょっと速く渡って、と思いながら。そして、なんとか全員が渡りきり、ようやく自分の番だ、と思いながら、駆けるのだ。

 

命からがら海原を駆け抜けたモーゼは、もう汗だくだ。走ったのもそうだし、土台、人が海を割るのは大変なことなのだ。その汗は、美しかっただろう。

 

はー、はー、もう、いいよね、おれで最後だよね、みんなちゃんと渡ったよね?

 

バッシャー。

 

割れた海は、合流する。

 

 

 

それほどに、弊社のエレベータの閉まる速度は速い。

 

そんなボロいビルに詰めているけど、おれは今の会社を好きだ。オフィスなんてボロくたっていいから、他の大事なことに金を使えばいい。